ひとり睡眠アンソロ

[選手宣誓]

息がままならない。水の中にいるようだと思った。
はく、と音にならない呼吸がふたりきりの部屋に溶けていく。
いつの間にか日が落ちていた部屋に気がついて、カーテンの端を握って引っ張った。その動作がいちいち強張っていて、とても莫迦莫迦しくて、乾いた笑いがこぼれ出た。

管に繋がれた中也は美しい。

麻酔の効いた身体は寝相の悪さを感じさせることもなく、静かに横たわるさまは少し毛色の変わった西洋人形のようだ。とはいえ包帯やガーゼが身体のいたるところに貼り付いて、あまり見映えが良いとは云えない。それでも美しいと思えた。
きちんと整えられたシーツをめくって、現れた手を握ってみる。握り返してはくれない。当たり前だけれど。
反応がないということは、こんなにも詰まらないものだったのかと思い知る。

宙を飛び回る中也は何よりも美しい。

重力遣いなんだから、その程度のこと、簡単にこなしてみせるべきだ。だって私の犬なのだから。
「もう二度と失敗しないから、」
早く目を覚まして、私のことを罵倒して。